【暮らし】静かな場所で暮らしたら、静かな自分になった話

暮らし

地方に引っ越してきて、もうすぐ1年が経とうとしています。移住を決める前は、「都会の便利さがなくなって、不便なことが増えるかも…」と、正直なところ少なからず不安を感じていました。しかし、いざ実際に地方で暮らし始めてみると、私の予想は嬉しい意味で裏切られました。そこには、思いがけないほど「整った自分」、そして、心が穏やかに満たされる「心地よい暮らし」が待っていたのです。

都市部では、“がんばってる自分”が常に隣にいた

都会での生活は、常に刺激と情報に満ち溢れていました。電車の中、通勤の途中、カフェで一息つく間さえも、周りの人々は皆、スマートフォンの画面に目を凝らし、最新の情報を追いかけ、スケジュールをパンパンに詰め込み、どこか常に急いでいるように見えました。

私自身もまた、その流れの中に身を置き、「常に何かをやっていないといけない」という、漠然としたプレッシャーを感じながら生きていました。成果を出すこと、新しいことを始めること、時間を効率的に使うこと。どれも決して悪いことではありません。むしろ、成長のためには必要な要素でしょう。しかし、その一方で、常に何かに追い立てられているような感覚があり、知らず知らずのうちに、私の「呼吸」は浅くなっていたのだと、今になって思います。心のどこかで、常に「もっと頑張らなきゃ」という声が響いていたのです。

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地方に来て、“暮らしの手触り”が戻ってきた

地方に移住してからの私の日常は、都会でのそれとは大きく様変わりしました。

朝の通勤は、電車ではなくバイクです。田んぼの横を走り抜け、肌で風を感じながら仕事に向かう。この時間が、私にとって最高の気分転換であり、一日の始まりを穏やかにしてくれます。

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ある日、仕事帰りにふらっとコンビニに立ち寄った時のことです。店内を一周しても、結局何も買わずに店を出てきました。その時、ふと「今、別に欲しいもんないな」と、ごく自然にそう思えたのです。都会にいた頃は、疲れたらカフェで一息つき、ついでに買い食いをしたり、衝動的に寄り道をしたりする「都市の習慣」が無意識のうちに身についていました。

しかし、地方に来てからは、そうした行動がスッと抜け落ちていきました。結果的に、それが無理のない節約にも繋がっていますし、「衝動的に買わない自分」に対して、小さな誇らしささえ感じています。無駄な情報や誘惑が少ない環境が、私自身の消費行動、ひいては心のあり方までも変えてくれたのです。

便利さより、“呼吸できる暮らし”が大事だった

もちろん、地方暮らしには都会にはない不便さもあります。夜遅くまで開いているお店が少なかったり、車がないとどこへも移動できなかったり、新しい商業施設や流行のスポットがすぐにできるわけではなかったり…。

しかし、そうした「不便さ」を補って余りあるほどの、精神的な快適さがそこにはありました。「あれを買わなきゃ」「あのイベントに行かなきゃ」「あの情報をチェックしなきゃ」──都会で常に感じていた、膨大な「情報の密度」から距離を取れたことで、私は本来の自分のペースを取り戻すことができました。

情報に振り回されることなく、自分の心と向き合う時間が増えたことで、まるで深い呼吸ができるようになったかのような感覚です。私にとって本当に大切だったのは、表面的な「便利さ」ではなく、心がゆったりと「呼吸できる暮らし」だったのだと、地方に来て初めて気づかされたのです。

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静かな場所で、静かな自分に気づいた

地方での生活は、私の中に大きな変化をもたらしました。いつの間にか、「もっと頑張らなきゃ」という強迫観念が薄れ、「まあ、今日はこれでよしとしよう」と、自分を労わる言葉が自然と口に出るようになっていたのです。

都会では、常に周囲の「人の速度」に巻き込まれていました。満員電車、慌ただしいオフィス、休日の人混み…。知らず知らずのうちに、周りのペースに合わせて自分を急がせていたのだと思います。しかし、地方では、文字通り「自分の速度」で暮らせる感覚があります。時間の流れが緩やかに感じられ、焦る必要がないという心の余裕が生まれるのです。

静かになったのは、住んでいる「場所」だけではありませんでした。周囲の環境が静かになったことで、自分自身の内面も、ゆっくりと、そして確実に静かになってきたのです。心のざわつきが収まり、本当に大切なもの、自分にとって心地よい状態とは何かを、より深く感じ取れるようになりました。

おわりに:地方暮らしは、“暮らしの選択肢”を増やしてくれた

地方暮らしは、万人におすすめできるライフスタイルだとは思いません。それぞれの価値観やライフステージによって、最適な場所は異なります。しかし、私にとって地方への移住は、「整える暮らし」への、非常に大きなヒントが詰まった体験でした。

何を「持たない」か、どこで「力を抜く」か、そしてどうすれば「自分の本来のペース」に戻れるのか。都会では気づきにくかった、これらの大切な問いに対する答えを、地方での静かな生活の中で、私は少しずつ身につけているところです。

地方移住は、私にとって単なる住む場所の変更ではありませんでした。それは、これからの人生における「暮らしの選択肢」を大きく広げ、より自分らしく、心地よく生きるための新たな道を示してくれたのです。

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