【資産形成】静かな焦り──資産4000万円。でも収入がないという現実

資産形成

「資産4000万円です」――そう話すと、多くの人から「もうFIREできるじゃん!」「余裕でしょ!」といった羨望の声が聞こえてくることがあります。たしかに、一見すれば経済的な目標を達成し、自由を手に入れたかのように見えるかもしれません。しかし、ちょっと待ってほしい。今、僕の財布には「お金が入ってこない」という、何とも言えない静かな地獄が広がっています。

今回は、数年かけて着実に資産4000万円を築き上げた僕が、育児休業中に直面したリアルな金銭事情と、そこから見出した新たな価値観、そして真の幸福についてお話ししたいと思います。

「もっと稼ぐ」は幻想だった:育休前の僕が追い求めていたもの

育休に入る前、僕の頭の中は常に「もっと稼ぐこと」でいっぱいでした。資産形成と聞けば、「月10万円の副業収入!」「早期退職して南の島で悠々自適!」といった、SNSでよく見かけるキラキラした理想像ばかりを追い求めていたのです。

当時は、会社の仕事で実績を出す傍ら、自分のスキルアップのために数々の資格取得にも奔走していました。まるで資格ハンターのように、取得した資格は20個以上にも及びます。それは、高校中退という学歴コンプレックスを乗り越え、会社という場所で自分の居場所を確立するためでもありました。この経験については、以前「資格で掴んだ「僕だけの居場所」:苦手な会社で生き残るための、地道で確実なサバイバル戦略」という記事でも詳しく触れています。自分の人的資本を磨くことは、常に僕のテーマでした。

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しかし、現実はどうだったかというと……。意気込んで始めた副業ブログは3記事で心が折れ、期待して買った株価は瞬く間に下がり、ポイント投資に至っては「おはじきレベル」の成果しか出ませんでした。努力はしているのに、目に見える形で「稼ぐ」結果が出ない日々。それは、精神的にも疲弊するものでした。それでも、「もっと稼がなければ」という強迫観念に囚われ続けていたのです。

そんな「稼ぐ」ことに焦り、走り続けていた僕が、今、育児休業中です。驚くことに、この数ヶ月、僕は労働によって1円も稼いでいません。それなのに、なぜか毎日が、以前よりも「そこそこ豊か」だと感じています。

この不思議な感覚を通して、僕は一つの真実に気づいてしまいました。 もしかしたら、「お金を増やす」ことよりも先に、「自分の時間を取り戻す」ことこそが、本当の資産形成の第一歩なのではないか、と。これは僕にとっての「自己責任という名の人生のエンジン:なぜ自分は本気になれたのか?」という考え方にも通じる、大きな発見でした。

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育休中に訪れた、僕にとっての「平和な革命」

育休に入った初日。朝9時にパジャマ姿で麦茶を飲んでいる自分を見て、思わず心の中で叫びました。「あ、これ、勝ち組では?」と。もちろん、目の前で赤ちゃんは泣いていましたが、それすらも(なんとか)愛おしいと思えるくらいの心の余裕が、そこにはありました。

通勤電車に揺られることもない。分刻みの会議もない。常に新しい情報が飛び交い、瞬時の判断が求められる会社のピリピリとした空気も存在しない。そして、赤ちゃんが寝ている間は、大人だって堂々と昼寝ができる(合法!)。冷蔵庫には昨日買ったばかりの美味しいおやつもある……。

この、自分の時間を「自由に使える」という贅沢は、会社員としてガツガツ働いていたら、おそらく永久に味わうことはできなかったでしょう。以前は、会社との距離感を測りかねていた僕にとって、この育休はまさに「サラリーマンという心地よい距離感」を見つけるきっかけとなりました。

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もちろん、「この時間で、もっと稼げたかもな」と考えることもあります。しかし、それ以上に、“自分の時間をちゃんと感じられる”という、計り知れない贅沢の方が、僕にとっては圧倒的に価値が大きかったのです。これは、僕の人生における、まさに「平和な革命」でした。この感覚は、僕が提唱する「人生を可視化する『僕の人生ダッシュボード』:3つの資本を最大化し、幸福を手に入れる戦略」で言うところの「時間」という見えない資産の重要性を示しています。

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育休中の収入、その意外な現実:資産4000万円でも直面する“静かな地獄”

「資産4000万円もあるなら、育休中の収入なんて気にしなくていいのでは?」 そう思われるかもしれません。しかし、育休中の収入は、多くの人が想像するよりも厳しい現実があります。

育児休業給付金という制度は、本当にありがたいものです。原則として、休業開始から最初の28日間は月収の80%、そこから半年間は67%、それ以降は50%が支給されます。額面で見れば、それなりに安定しているように見えますよね。

でも、これが「額面」の話である、というところに落とし穴がありました。実際に口座に振り込まれてくる金額を見ると、 「……ん? あれ? 想像の3割減?」 と、思わず二度見してしまうほど、予想よりも手取りが少ないことに驚きます。給付金には上限があり、月収が高い人ほど手取りとのギャップを感じやすいでしょう。

もちろん、育休中は社会保険料(健康保険料と厚生年金保険料)が免除されるという大きなメリットがあります。この点は、本当に厚生労働省に感謝しかありません。しかし、会社からのボーナスがまるっと消える夏は、想像以上に懐が寂しく、切なさを感じずにはいられません。これまで年間収入の大きな部分を占めていたボーナスがゼロになるインパクトは、資産があるとはいえ、精神的にくるものがあります。

今、僕の心の支えはS&P500、ただお前しかいない

正直なところ、今の僕の心の平穏は、米国株の代表的な指数であるS&P500の機嫌にかかっていると言っても過言ではありません。

幸いなことに、僕の投資資産の大半はS&P500などのインデックスファンドに集中しており、これまでも着実に成長を続けてきてくれました。株価が上がっていれば、「ま、今年は投資が頑張ってくれてるし」と、まるで自分自身が働いているかのように強がることができます。日々の資産残高アプリのチェックが、一種の精神安定剤になっているのです。

しかし、逆に株価が下がっていたら──もう、目も当てられません。評価額が大きく減少し、含み益が縮小、あるいは含み損に転じたら、資産はもちろん、心まで含み損で凍えついてしまうでしょう。この不安との戦いは、資産形成に取り組む誰もが経験することです。

幸いなことに、今のところS&P500さんが僕の期待に応えてがんばってくれてるおかげで、かろうじて「精神的含み益」だけは維持されています。ほんとありがとう、これからも、どうかよろしくお願いします。

「足踏み」ではなく、「アイドリング」期間と捉える

資産形成は、基本的には「資産を増やすゲーム」です。だから、今の僕のように収入が大幅に減り、資産がほとんど増えない「横ばい」の状態が続くと、昔の自分ならきっと焦っていたことでしょう。新しい資格の勉強を始めたり、副業に躍起になったりしたかもしれません。

しかし、最近は不思議と穏やかな気持ちでいられるようになりました。 「これはこれで、必要な時間なのかもしれないな」 と、思えるようになってきたのです。

例えるなら、FIREというゴールに向かってエンジンを全開で吹かしすぎたから、今は一旦、アイドリング中といったところでしょうか。外からはエンジンの音も静かで、止まっているように見えるかもしれません。でも、内部ではちゃんと動き続けている。燃料を再チャージし、次なる加速に備えている時期なのだと、自分に言い聞かせています。この「窓際FIREはストレスフリー:ストレスなく働き続けられる、心地よい労働との距離」という考え方は、このアイドリング期間があってこそ、より明確になりました。

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この期間は、ただ立ち止まっているわけではありません。むしろ、自分自身を深く見つめ直し、家計の無駄を徹底的に排除し、本当に大切なものに時間を使うための貴重な時間なのです。

地味だけど、めちゃくちゃ効いた「家計整えチャレンジ」:時間という資産の活用

働いていた頃の僕は、「家計簿アプリなんて、リア充の趣味でしょ?」と、どこか冷めた目で見ていました。多忙を言い訳に、家計管理は常に後回し。月末に明細を見て「あれ、今月使いすぎた?」と漠然と反省するだけの繰り返しでした。

ところが、育休に入ってからは違います。まとまった時間がある今だからこそ、これまで見て見ぬふりをしてきた家計の「ブラックボックス」を徹底的に可視化することにしました。

マネーフォワードを導入し、本格的に家計の「見える化」に着手。これまでバラバラだったクレジットカードを整理し、ポイント還元は「ドコモ経済圏」に一本化することで、日々の消費からも効率的にポイントを獲得できるようになりました。

なんとなく契約しようとしていた息子の生命保険も、育休中の時間を活用して、複数の商品を徹底的に調べ上げ、本当に必要な保障を見極めました(これは本当に褒めてほしい)。人生において大きな買い物となる保険について、納得いくまで検討できたのは、時間に余裕があったからこそです。

さらに、サブスクリプションサービスも、「そもそも俺、これ最近観てたか?」「本当に利用してるか?」と一つずつ問い直し、不要なものはバッサリ解約しました。気づけば、使っていないサービスに毎月数千円も支払っていた、という無駄が次々と明らかになったのです。

これらは、どれも地味な作業です。しかし、育休中の「すき間時間」があったからこそ、着手できたことばかりです。もし仕事が忙しかったら、きっと「今度の週末にやろう(→そして一生やらない)」と先送りにしていただろうと思います。

この「家計整えチャレンジ」は、直接「稼ぐ」ことには繋がらないかもしれません。しかし、支出を最適化することは、手元に残るお金を増やし、結果として「お金のために働く時間」を減らすことに繋がります。これは、まさしく「時間を取り戻す」ための、地味ながらも強力な一歩だったのです。僕が「地方移住で発見!「がんばらない自分」と「整った暮らし」の心地よさ」という記事で書いた「整った暮らし」にも通じる、生活の基盤を強化する作業でした。

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それでも出ていくお金たち:価値ある「投資」として捉える視点

育休中といえど、出ていくお金は容赦なくやってきます。 毎日使うオムツ代、ミルク代、増え続ける離乳食の材料費、そして頑張る自分を労うためのたまに食べるコンビニスイーツ……。出費が減るどころか、むしろ地味にかさんでいるような感覚さえあります。

しかし、これらの出費も、見方を変えれば立派な投資だと考えるようになりました。 なぜなら、これらのお金は、“今しか味わえない時間”、つまり愛する子どもの成長を間近で見守るという、かけがえのない経験にお金を使っているからです。(もちろん、自分にそう言い聞かせている部分も大きいですが。)

子どもの「はじめて」の瞬間は、二度と戻りません。その瞬間を共有し、育児を通して得られる喜びや学びは、将来どんなにお金持ちになっても買えないものです。そう考えると、一見「消費」に見える出費も、未来の幸福という「リターン」を生む「時間への投資」と捉えることができるのです。これは、僕が「人生ダッシュボード」で重視している「社会資本(共同体=絆)」の価値を、身をもって体験している期間でもあります。

たぶん、また加速できる。だから今は焦らない

育休期間が終われば、また給料も入るし、ボーナスも復活する(はず)。積立NISAやiDeCoへの積立も再開できるし、「資産増やすマン」に戻る準備は整っています。

しかし、僕はこの育休という期間での「立ち止まり」が、決して無駄な時間ではなかったと確信しています。むしろ、FIREへの長いロードマップにおいては、燃料を補給し、精神的な休息をとるための「給水ポイント」だったのかもしれません。この期間で得た「時間」の価値、家計を見直す習慣、そして家族との絆は、今後の人生をより豊かにしてくれるでしょう。

資産は4000万円。 労働による収入は限りなくゼロに近い。 でも、なんとか笑っている。なんとか暮らしている。 たぶん、それが、緊急時に備える「生活防衛資金」よりも、はるかに強く、僕の心を支えている「精神防衛資産」の正体なのではないかと感じています。

この時期を乗り越えることで、僕のFIREロードは、より盤石で持続可能なものになるでしょう。焦らず、このアイドリング期間を大切に過ごしていきたいと思います。

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